伊島空さんの「ネガティブポップ 」更新!(Diver)
伊島空さんの「ネガティブポップ 」が更新されました!
伊島空さんとカメラマン野﨑慧嗣さんの対談の構成を担当しています。
なぜ、タイトルが「Diver」なのか、その理由がわかります。
1995年5月31日生まれ。東京都出身。 映画『菊とギロチン』(監督:瀬々敬久)でデビュー。映画『止められるか、俺たちを』(監督:白石和彌)の高間賢治役で注目を集める。現在、ドラマ『I”s』(BSスカパー!他)、『がっこう×××〜もうひとつのがっこうぐらし〜』(Amazonプライム)が配信中
伊島空(俳優)×野﨑慧嗣(カメラマン)
「お互い苦しみあった撮影でしたね(笑)」
--今回のテーマは「Diver」でした。
伊島空(以下、伊島) 最初、「Diverって、どういうこと?」って悩みましたよ(笑)。打ち合わせの時、カメラマンの野﨑さんから渡された資料には、大きなテーマとして「Diver」があって、その下に「美しさ」「優しさ」「悲しさ」「強さ」という4つのテーマが書かれていた。そして、「『潜る』というのは別の世界に足を踏み入れること。今まで自分が踏み入れたことのなかった世界は、安全なのか、危険なのか。快適なのか、不快なのか。好きなのか、嫌いなのか。それは伊島さんにしかわかりません。ひとまず未知の世界にダイブしてみましょう」とあった。スチール撮影でこうしたテーマが与えられることはなかったので、最初は何が起こるんだろうと思いました(笑)。
野﨑慧嗣(以下、野﨑) 共通のテーマがひとつあればいいと思ったんです。テーマを「Diver」にしたのは、いつもと違う環境やいつもと違う自分に出会うことを意識してほしかったから。名前の「空」から、「何かが空から降ってくる」というイメージが浮かんだんです。でも、降ってくるよりも潜っていくほうが、自分から行く感じがある。空から地上に潜るイメージですね。それで、テーマを「Diver」にしたんです。
伊島 まあ、そう説明されてもよくわからなかったので、とりあえず現場に行ってから考えようと思ってました(笑)。
野﨑 あと、打ち合わせの時に伊島さんに「何かやりたいことありますか? どこで撮りたいですか?」って聞いたら「泥のあるところ」って答えたんですよ。「美しさ」というテーマなのに「泥」です。泥って、美しいというイメージはあまりないじゃないですか。でも、泥で汚れていくことで自分がキレイになるというのもありなのかなって。伊島さんは、そういう感性を持っているんだなって思いました。
伊島 「やりたいことありますか?」って聞かれたんですよ。役作りで髪を丸刈りにしていて少し伸びたところだったので、そんな自分がどんな場所で写ってたら面白いかなって考えたら、単発で顔に泥がついてて笑っているイメージが浮かんだんです。
野﨑 最初は「自然があるところで、土いじりとか、泥いじりとか、生活している感じがいいですよね」って話していたのに、ここまで泥まみれになるとは思っていませんでした。ロケハンでは田んぼとかも見に行ったんです。でも、テーマは「Diver」だし、少し水もあったほうがいいかなと思って泥の水たまりを選びました。
伊島 「未知の世界に飛び込む」というテーマが、泥につながって行くのはとてもおもしろかったです。そして、撮影を進めていくうちにだんだんと野﨑さんがやりたいことがわかってきました。
野﨑 最初は歩道橋のところから撮影をスタートさせたんですよね。
伊島 そう。これまでのスチール写真ってポーズをとってシャッターを切るという感じだったので、今までどおりポーズをつけてカメラに向かったら、野﨑さんが駆け寄ってきて「違う! 違う!」って。そこで、またテーマの「Diver」の話をされたんです。
--どんな話でした?
野﨑 1988年に公開された『ベルリン・天使の詩』(監督:ヴィム・ヴェンダース)という映画に、人間に恋をして地上に降りてきた天使が、実体化して人間になって、だんだんものがつかめるようになるというシーンがあるんです。そういうふうに空気とか光とか、初めて見るもの初めて触るものがあって、それが触れるようになったとき、自由に動けるようになったときの感動を表現してほしいと言いました。だから、ポージングよりも伊島さんが感じることを大事にしてほしかったんです。
伊島 不思議なのは、打ち合わせの時にそういう話を聞いてもわからなかったんですが、現場で説明されると妙な説得力があったんです。僕は普段、お芝居をやっているので、「ここはこうだ」って演出されると、それに応えなきゃという気持ちになっていきました。でも、そこからがつらかった。一日中ひとり芝居を要求されるんです。しかもセリフも台本もない。ひたすら自分の心と話し合うだけ。自分の感情とか感覚とかと対話を繰り返すだけ。で、やっていると「今の違う!」「形だけだ!」「本当に心が動いていない!」とか言われて、それでどんどん追い詰められていくんです。
野﨑 確かに具体的なことはあまり言ってなくて、「ここはこういう場所だから、こういうことを感じて」くらいでした。「光が自分の体をすり抜けていく感覚で」とか、後から考えると自分でも「なに言ってるんだろう」って思うけど、普通ではあり得ない状況になった時に、伊島さんだったらどう表現するかを知りたかったんです。
伊島 そうなると、普段は絶対にしないようなこと、例えば自分の手をじっと見たり、柵をさすってみたり、「なんでアスファルトの隙間から草が生えているんだろう」って考えてみたり、不思議な感覚になりました。
野﨑 それが狙いでもあったんですが、僕が考えないようなことを伊島さんが考えたり、僕の想像を超えていく部分もかなりありました。
--出来上がった写真を見てどう思いました?
伊島 本当にこれまでのスチール写真とは違う表情だったんで驚きました。涙目になっていたり、カメラに何かを要求していたり、逆に拒絶していたり。動きもそう。普通だったら、地べたに転がって脚を上にあげて、顔の半分をアスファルトにつけたりしないですよ(笑)。野﨑ワールドにうまく引き込まれてしまいました。今回の撮影は本当に過酷でつらかったけれども、同時にとても幸せでした。自分のひとり芝居に一日中向き合ってくれる。こんないい機会はなかなかないですよ。
野﨑 僕もつらかったんですよ(笑)。自分が想像していることが正解じゃないので、その場でどんどん変えていかなくちゃいけない。一瞬一瞬を試されている。お互い苦しみあった撮影だったんですね。
伊島 でも、つらいけれどもネガティブ感じゃなくて、それは前向きなポジティブなつらさだった。意味のあるつらさだったから、本当にありがたかったです。
野﨑 こちらこそ、ありがとうございました。
伊島 最後に、日常からダイブした普段じゃ見られない写真になっていると思うので、ぜひ、見ていただきたいです。
野﨑 よろしくお願いいたします。
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